ロサンゼルス3泊4日の最終日、ホテルのベッドで明細書を眺めながら、私は喉の奥で小さく唸りました。タコス3個・コーヒー2杯・ハンバーガー1個──現地で「安い、安い」と思って食べたはずなのに、合計金額の下に並ぶ「Tax」と「Tip」の数字が、見るたびに私の指を止めさせます。表示価格×1.35。電卓を叩くまでもなく、私の財布はその法則を律儀に守っていました。
「LAのグルメは、有名レストランのリストを並べて終わり」──そんな記事を読んで満足していた頃の私は、ロサンゼルスという街の食を半分も食べ切れていませんでした。アボカドトースト、インアンドアウトのバーガー、ハリウッドの夜景レストラン。確かにそれらも”LAの食”の一部です。
けれども、本丸はそこにはない。本丸は、深夜0時を過ぎたイースト・LAの路上に並ぶタコストラックの煙の中にあり、コリアタウンの炭火が赤くなる卓上にあり、ノース・ハリウッドの寺院の境内に開く土日朝の屋台市場の中にあります。
申し遅れました。元旅行代理店勤務、ホテル・旅行ブロガーとして月の半分を世界各地のホテルで過ごしている40代半ばの男です。20代の頃から「安けりゃ正義」「口コミ4.0以上なら大丈夫」と思い込んで、宿だけでなく食事でも数えきれないほど痛い目を見てきました。LAでも例外ではありません。
最初の渡米では「英語が通じるんだから食事で困るわけがない」と高を括り、結果として、サンタモニカのアサイーボウルとハリウッドの観光客向けレストランで3日間が終わりました。「LAって、思ったほど食の街じゃないですね」──帰国後、そう同僚に語った当時の自分を、いまの私は後ろからそっと小突きたい衝動に駆られます。
あなたは、滞在3〜5日で何回ご飯を食べられるか数えてみたことはありますか?朝・昼・夜、おやつや夜食を入れても、せいぜい9〜15回。1食を外すたびに、LAという街の食の総決算は確実に目減りします。そして、移民都市LAの食は「時間帯で別の街になる」「言語が変わる」「作法が変わる」「価格表示が嘘になる」という、4つの仕掛けで観光客をふるい落としにかかってきます。
この記事は、私自身が何度も泥水を飲んできた末に辿り着いた「LAグルメ攻略の地図」です。ガイドブックには載らない時間割、移民コミュニティの路上、注文時に必須の言語フレーズ、表示価格×1.35の財布管理。読み終わった頃には、あなたのスマホメモには6つのフレーズが保存され、Googleマップにはイースト・LA/コリアタウン/タイタウン/リトル東京のピンが立っているはずです。私の失敗を、あなたの旅の踏み台にしてください。

LAって結局アボカドトーストとハンバーガーですよね?インスタで見たやつ食って帰ればいいでしょ。



それで終わるなら、LAの食の半分どころか7割を諦めることになります。LAの食の本丸は、移民コミュニティの路上と深夜帯にあるんです。今日から私が地図を描きます。
「LA料理=アボカドトースト」幻想を3秒で粉砕する
結論から言います。LAの「名物料理」と呼ばれているもののほとんどは、アメリカ料理ではなく移民料理です。タコス・アル・パストール、KBBQ、パッタイ、リトル東京のラーメン──これらはすべて、ロサンゼルスに根付いた移民コミュニティが20世紀から21世紀にかけて育て上げた食文化であり、LAという街の本籍地そのものです。
アボカドトーストやハリウッドの夜景レストランは、もちろん存在しますし美味しいけれど、それだけを巡って帰国するのは、京都に行って嵐山のスタバだけ覗いて新幹線に乗るような不思議な行為なんです。
LA移民人口の構成と「食の本丸」が路上にある理由
ロサンゼルスは、全米でも屈指の移民都市です。メキシコ系・韓国系・タイ系・日系のコミュニティがそれぞれ巨大な街区を持ち、自分たちの言語と料理と作法を維持したまま、何十年もLAという街の中で生き続けています。
コリアタウンは全米最大、タイタウンは世界で唯一公認されたタイ人街、リトル東京は1900年代初頭から続く日系移民の中心地、イースト・LAはチカーノ(メキシコ系アメリカ人)文化の拠点。これらのエリアでは、英語よりも母語が先に飛び交い、メニューも母語で書かれていることが多々あります。
そして、本物の食はたいてい、観光客のために整えられた店ではなく、これらのコミュニティの路上・深夜帯・週末限定マーケットに集中しています。タコストラック(ロンチェラ)が深夜1〜3時に最も賑わうのは、コミュニティの労働者たちの夜食需要が中心だから。ワット・タイ寺院の屋台が土日朝にしか開かないのは、地元のタイ系信徒の集まりに合わせているから。ガイドブックの取材時間帯(昼間)にだけ目を向けていては、LAの食の半分は最初から見えていないのです。
アボカドトースト・インアンドアウト・ハリウッドだけで帰国した人の末路
正直に告白します。私の最初のLA渡航は、ほぼこのコースでした。サンタモニカのインスタ映えするブランチカフェで$22のアボカドトースト、ハリウッド大通りのガイドブック掲載店で$45のステーキ、そしてどこかでインアンドアウトのバーガーを普通に頼んで「普通っすね」と帰国。
空港で振り返ったとき、私の頭に残ったLAの食の印象は「高くて、量が多くて、思ったほど印象に残らない」というぼんやりしたものでした。当時の自分は完全にカモでしたね、と笑ってはみるものの、いまでも少し恥ずかしい思い出です。
あなたは、LA旅行から帰ってきた友人の話を聞いて「言うほどグルメの街じゃないんだな」と思ったことはありませんか?それは多分、その友人がLAの食の本丸に踏み込まなかっただけなんです。深夜のロンチェラでアル・パストールを2個$3で食べた人が、$22のアボカドトーストの話を持ち帰ることはありません。問題は街ではなく、街の歩き方の方にあります。
この記事の地図:4大移民食文化×時間軸×言語フレーズ×財布管理


この記事ではこれから、LAグルメ攻略の地図を4つのレイヤーで描いていきます。
- 4大移民食文化マップ:メキシカン(イースト・LA/ロンチェラ)、韓国(コリアタウン/KBBQ)、タイ(タイタウン/ワット・タイ寺院)、日本(リトル東京/トーランス)
- 時間軸の地図:朝・昼・夕方・深夜・週末で稼働する店がまったく変わるLA特有の構造
- 言語フレーズ集:注文・会計で本当に使う10個の実戦フレーズ
- 財布管理(×1.35法則):消費税9.5%+チップ18〜20%で、表示価格は確実に1.35倍になる現実
この4枚の地図を頭の中に重ね合わせれば、LAの食はもう、英語が通じないからと尻込みする街ではなくなります。むしろ「英語が通じない場所にこそ本物がある」という、ちょっとしたパラドックスを楽しめる街に変わります。
会計で青ざめないために──「表示価格×1.35が実費」のLA鉄則
結論を先に。LAでは、メニューに書かれた価格に対して、実際に支払う金額は1.3〜1.35倍になります。これを知っているか、知らないかで、3泊4日の旅行費用は1〜2万円単位で変わります。冗談ではなく、最初の1食目で気づかなかった旅行者は、最終日に空港のスタバで小銭を数えることになります。



メニューで計算して15ドル以内に収めるつもりで頼んだのに、毎回会計が20ドル超えてしまうんです。何でこんなにズレるんですか…?



LAの消費税は約9.5%、そこにチップ18〜20%が乗ります。計算が面倒なら「表示価格×1.35」を実費の目安にしてください。タブレットのチップ選択で、カウンターサービスなら”No Tip”または”Custom”で10%以下でも失礼にはなりません。
消費税9.5%+チップ18〜20%=×1.35の暗算式
カリフォルニア州ロサンゼルス市内の消費税は約9.5%。そして、テーブルサービスのレストランでは、チップは事実上の「義務」に近い社会的圧力で、18〜20%を払うのが標準です。両方を足すと27.5〜29.5%。表示価格に上乗せされる比率は、ざっくり1.3〜1.35倍です。$15のランチが、出口では$20を超える。$30のディナーが、$40に化ける。$80のディナーは$108になる。これがLAの会計の現実です。
具体的な暗算法はシンプルで、「表示価格を1.35倍する」だけ。$10なら$13.5、$20なら$27、$50なら$67.5。慣れないうちは、メニューを見るたびに頭の中で1.35を掛け算する癖をつけると、最終日にカード明細を見て凍りつくことが防げます。日本の感覚で「税込・サービス料込」のつもりで店を選ぶと、出口で別の店に来てしまったような気分になりますから、最初の1食目から覚悟を決めてかかるのが安全です。
タブレットチップ画面で焦らない3つの選び方
近年のLAでは、レジ会計時にiPadを差し出され、画面上で「18% / 20% / 25% / Custom / No Tip」のいずれかを選ばされる場面が爆発的に増えました。後ろには列。「早く決めないと」という圧迫感の中、何の計算もせずに25%を押してしまった結果、3泊4日でチップだけで2万円を超えていた──これは私が経験した実話です。
覚えておくべきは、サービスの種類によってチップの「常識」が違うということ。テーブルサービス(ウェイターが来る席で食べる)なら18〜20%が標準。一方、カウンターサービス(自分で注文・受け取り)やフードトラックでは、本来チップは不要、もしくは0〜10%でまったく構いません。
タブレットの選択肢に20%以上ばかり並んでいても、”No Tip”や”Custom”で0〜10%を入れることに罪悪感を覚える必要はないんです。アメリカ人自身、カウンターサービスの過剰チップ要求に「Tip Fatigue(チップ疲れ)」という言葉を使い始めています。
- テーブルサービス(着席型):18〜20%を選ぶ。25%以上は特別に良かった時のみ。
- カウンターサービス(受け取り型):No TipまたはCustomで0〜10%。罪悪感は不要。
- フードトラック・コーヒースタンド:基本不要。気持ちよかったら$1〜2を現金で渡せば十分。
「Can I get a to-go box?」で胃も財布も守る分割戦略
LAのレストランのポーションサイズは、日本の2〜3倍が標準です。最初に運ばれてきたサラダの皿を見て「これ前菜なのか…」と固まった経験は、私だけではないはずです。そこで活躍するのが、ドギーバッグ文化です。「Can I get a to-go box?」──このひと言で、店員はすぐに発泡スチロールの容器を持ってきてくれます。
残した半分は、ホテル冷蔵庫に入れて翌朝の朝食にする「分割戦略」が、LAでは合理的なんです。ホテルの朝食ビュッフェ(往々にして$30〜40)を1回パスできれば、それだけで前夜のディナー代の3分の1が浮く計算になります。
胃にも財布にも優しく、しかも「もったいない」を回避できる。To-go boxを依頼するのに気後れする必要はまったくありません。LAではむしろ、残したものを持って帰らないことの方が珍しいのです。
表示価格×1.35で実費を見積もる。タブレットチップは種類で使い分ける。残ったらto-goで翌朝に回す。この3つを守るだけで、LAの会計に振り回されることはなくなります。財布が落ち着けば、舌の方も本気でLAの食を楽しめるようになるんです。
LAは時間帯で「別の街」になる──朝・昼・夕方・深夜・週末の食の地図
結論を先に置きます。LAの食を「ランチに行く」「夕食に行く」という日本式の発想で組み立てると、本物の半分以上を取り逃します。LAは時間帯によって稼働する店舗群がまったく入れ替わる、いわば「時計で姿を変える街」なんです。これを理解するか否かで、滞在中の食事の質は別物になります。



夕方17時にフードトラック探しに出たんですけど、街がガラガラで全然見つからなくて…結局コンビニで済ませちゃいました。



LAのロンチェラは深夜0〜3時が最繁盛帯です。夕方17時はトラックの大半が仕込み中か移動中。時間帯で街が変わると思って動いてください。
朝〜昼:ブランチ予約戦争とGrand Central Marketの平日穴場
朝6時〜10時は、サンタモニカ・シルバーレイクのブランチカフェの戦場です。アサイーボウル、アボカドトースト、コールドプレスジュース──インスタ映えの王道メニューが並ぶ店は、土日10時を過ぎるとウェイトリスト2時間が常態化します。空腹のまま炎天下に立ち続けるのが嫌なら、OpenTableかResyで前日までに予約を入れるか、平日か土日の朝8時台の一番乗りで攻めるのが正攻法です。
昼11時〜14時は、ダウンタウンLAのGrand Central Marketが穴場です。1917年創業の老舗フードホールで、メキシカン、日本食、カリビアン、デリ、コーヒーが一カ所に集結しています。週末は観光客でごった返しますが、平日のランチタイムは比較的落ち着いていて、複数文化の料理を1食でハシゴできる利点があります。同じく老舗のランガーズ・デリのパストラミサンドを食べるなら、月〜土の午前中(後述します)が黄金時間帯です。
夕方〜夜:KBBQ・リトル東京・本格メキシカンの稼働時間帯
夕方17時〜夜22時は、コリアタウンのKBBQ、リトル東京の居酒屋・ラーメン店、そしてイースト・LAやボイル・ハイツの座席ありメキシカン店が稼働を始める時間帯です。KBBQは18時前後にゴールデンタイムを迎え、リトル東京の人気ラーメン店は19〜20時に行列ピーク。この時間帯にサンタモニカのブランチを探しても、ほとんどの店は既に閉まっているか、ディナーメニューに切り替わって朝のメニューは出てきません。
「ランチで食べたあの店、夜は別物だった」──これはLA初心者が陥りがちな勘違いで、店によって朝・昼・夜のメニューが完全に切り替わる例も珍しくありません。Yelpで店を保存するときは、自分が行きたい時間帯のメニュー写真を必ず確認しておくことをおすすめします。
深夜0〜3時:イーストLAロンチェラの本気の時間帯
そして深夜0時〜3時。これがLAタコス文化の本気の時間帯です。ロンチェラ(Lonchera)と呼ばれる移動式タコストラックが、イースト・LAやボイル・ハイツの路肩に煙を上げ始めるのが23時前後。1〜3時にピークを迎え、地元のメキシコ系コミュニティの労働者・若者・夜遊び帰りの人々が、トルティーヤ2枚重ねのアル・パストールを片手に立ち食いしています。1個$1〜2で、$5あれば腹が満たされる。これがLAタコスの真骨頂です。
ただし、深夜のイースト・LA徘徊にはリスクもあります。Uberで往復する/グループで動く/土地勘のないエリアに徒歩で踏み込まないという基本原則を守れば、安全側に倒せます。安全とロンチェラ体験の両立については、メキシカン編で詳しく書いていきます。
週末限定:日曜のSmorgasburg LA/土日朝のワット・タイ寺院マーケット
そして週末。LAには「週末しか開かない聖域」がいくつも存在します。Smorgasburg LAは毎週日曜のみ、ダウンタウン東部のRow DTLAで開催される約100ベンダーのフードマーケット。フードトラック文化の「移動リスク」なしに、LAのストリートフードを一気に体験できる、初心者にも上級者にも優しい定置スポットです。
もうひとつが、ノース・ハリウッドのワット・タイ寺院マーケット。米国初のタイ寺院の境内で、土・日のみ開かれるコミュニティ屋台市場で、1品$3〜8という驚異の価格でタイ系移民の本物のタイ料理が食べられます。詳しくはタイ編で書きますが、これらは「土曜に来てしまったら別のスポットに切り替える」「日曜の午前中を空けておく」といった事前計画で確実に押さえたい時間帯です。
| 時間帯 | 稼働するシーン | 狙い目スポット |
| 朝6〜10時 | ブランチ予約戦争 | サンタモニカ/シルバーレイクのカフェ |
| 昼11〜14時 | フードホール・老舗デリ | Grand Central Market/ランガーズ |
| 夕方〜夜17〜22時 | KBBQ・ラーメン・座席メキシカン | コリアタウン/リトル東京 |
| 深夜0〜3時 | ロンチェラ最繁盛 | イースト・LA/ボイル・ハイツ |
| 日曜限定 | 定置型フードマーケット | Smorgasburg LA(Row DTLA) |
| 土日朝 | 寺院コミュニティマーケット | Wat Thai Temple(ノース・ハリウッド) |
この時計を頭に入れて、滞在日程の表に「深夜枠」「日曜枠」「土日朝枠」を1つずつ確保するだけで、LAの食の見え方は劇的に変わります。「ランチに行こう・夕食に行こう」という発想を捨て、「いま何時に何が稼働しているか」を起点に動いてみてください。
【メキシカン編】イーストLAのロンチェラとサルサ沼を制する
結論。LAのタコスを語るなら、イースト・LAのロンチェラを夜に2〜3時間体験してから語るべきです。サンタモニカやウェスト・ハリウッドの座席タコス店も悪くはありません。けれども、移民料理としてのタコスの本籍地は、確実に深夜の路肩にあります。1個$1〜2、トルティーヤ2枚重ね、サルサは自分で識別して選ぶ──この体験を一度通すと、その後のLAの食の見え方が変わります。
ロンチェラとは何か:1974年生まれのLAタコス文化の本丸
ロンチェラ(Lonchera)の歴史は1974年に遡ります。元アイスクリームトラックの運転手だったラウル・マルティネスが、ロサンゼルスの工事現場や工場の近くにメキシコ料理を売って回るトラックに改造したのが起源と言われています。それから半世紀。ロンチェラはイースト・LA、ボイル・ハイツ、サウスゲートなどの移民コミュニティで爆発的に増殖し、現在ではLAのメキシカン路上食文化そのものを意味する言葉になりました。
初心者には「夜の屋台で立ち食いするタコス」と説明すれば伝わると思います。ただし、出店場所と時間は固定ではなく、トラックごとに違います。イースト・LAのCésar Chávez Avenue沿い、ボイル・ハイツのWhittier Boulevard沿いが代表的な集積エリアで、深夜0時〜3時に最も賑わいます。煙を上げる縦型スピット(パストールの肉串)、ピクルスの瓶、サルサの小皿、紙皿に盛られたコーントルティーヤ──現地に行けば、それがロンチェラだとすぐ分かります。
「ダブルで」と「No cilantro」──注文時に必須の2フレーズ
ロンチェラで失敗しない注文の鉄則は2つあります。1つ目は「Double, please.(ダブルで)」。タコスのトルティーヤを2枚重ねでお願いするフレーズで、これを言うか言わないかでタコスの崩壊率が劇的に変わります。LAのタコスはコーントルティーヤがやや薄く、肉と汁を支えるには1枚では心もとない。地元民はほぼ全員ダブルで注文しています。「これって私たちの文化じゃないの」と一瞬思うかもしれませんが、これは現地の慣習に従うのが正解です。
2つ目が「No cilantro, please.(パクチー抜きで)」。LAのメキシカンとアジアフュージョンには、ほぼ全料理にコリアンダー(パクチー)が大量投入されます。パクチーが好きな方には天国ですが、苦手な方には文字通り石鹸味の悪夢になります。最初の一口で「あ、石鹸だ」と気づき、残り2個も同じ状態と悟って、$15のタコスプレートをナプキンに包んだ夜のことを、私は今も忘れられません。注文前にこの6文字を伝えておけば、その夜は救われていたんです。



タコス3個頼んだら全部パクチーまみれで、最初の一口で石鹸の味がして放棄しましたっす…。



私もです!「No cilantro, please.」って注文時に言えばよかったんですね。覚えました。
サルサ5種を1分で識別:ヴェルデ・ロハ・チポトレの使い分け
ロンチェラのもう一つの罠が、トラックの前に並ぶ5〜6種のサルサ小皿です。色も粘度も違うが、ラベルはスペイン語のみ。最初は何も考えずに全部かけたくなる衝動に駆られますが、それをやると口の中がワンダーランドではなく戦場になります。
- ヴェルデ(Verde/緑):トマティーヨベース。さっぱり辛で、酸味とハーブの香り。万能。
- ロハ(Roja/赤):トマトと唐辛子のコク深め。マイルドな辛さ、肉に合う。
- チポトレ(Chipotle):燻製唐辛子のスモーキーな辛さ。中辛〜辛口、肉系と相性抜群。
- アグア(Agua):水分多めで辛さ控えめ。子供向けの店で出てくることも。
- チレ・デ・アルボル(Chile de árbol):激辛系。少量で十分、慣れていない人は触らない。
初回はヴェルデを少量・ロハを少量の2種だけかけて、味を確認するのが安全です。チポトレに進むのは2杯目以降。チレ・デ・アルボルは「全部かけ」を絶対にやめてください。地元のメキシカン家族が小指の先でちょん、と乗せている量がすべての答えです。
スペイン語メニューの内臓系語彙:Lengua / Buche / Cabeza
イースト・LAの黒板メニューはスペイン語のみが基本です。翻訳アプリを覗き込んでも、訳語がそのまま出てくるだけで、それが何の部位なのか想像できないことがあります。最低限知っておきたい語彙を一覧にしておきます。
| スペイン語 | 意味 | 初心者向け度 |
| Asada | 牛肉のグリル | ◎ 最初の1個に推奨 |
| Al Pastor | 豚肉のスピット焼き(パイナップル風味) | ◎ LAの代表格 |
| Pollo | 鶏肉 | ◎ 安全牌 |
| Carnitas | 豚肉の煮込み(柔らか) | ◯ 脂多め |
| Lengua | 牛タン | △ 内臓初心者には少しクセ |
| Buche | 豚の胃袋 | △ 上級者向け |
| Cabeza | 頭肉(牛または豚) | △ 上級者向け |
| Tripa | もつ(小腸) | × 初心者は避ける |
初回はAsada / Al Pastor / Polloの3種を1個ずつ頼むのが正解です。Lenguaは日本人なら牛タンとして親しまれているので、好奇心があるなら2杯目で挑戦するのもアリ。BucheやCabezaは、内臓系が得意でない方は避けて構いません。「勘で頼んだら胃袋が来た」という体験は思い出にはなりますが、夜中の路肩でやるには少しヘビーです。
ビリア・タコスとアル・パストール──絶対外さない2品
ロンチェラで最初に頼むべき2品は、ほぼ全員一致でアル・パストールとビリア・タコスです。アル・パストールは、縦型スピットでパイナップルと一緒に焼いた豚肉を薄くスライスし、コーントルティーヤに乗せたLA代表格。1960〜70年代にメキシコシティから移民を通じて伝わり、LAでさらに進化した一皿です。
ビリア・タコス(Birria Tacos)は、牛肉を香辛料で長時間煮込んだ「ビリア」のスープに、タコスを浸して食べる料理。2018年前後にSNSでバイラル化し、いまではLAタコス文化の新定番として完全に定着しました。
チーズを挟んで揚げ焼きにしたQuesabirria(ケサビリア)も人気で、深夜のロンチェラで「Quesabirria, double please.」と頼めば、ほぼ間違いなく満足できます。スープの「コンソメ」を別容器でもらって浸すスタイルが本流ですから、紙コップを差し出されても怯まないでください。
治安と移動:深夜帯はUber/グループ行動の鉄則
正直に書きますが、深夜のイースト・LAやボイル・ハイツは、観光地ではありません。地元コミュニティの生活圏で、夜間の徒歩移動は日本の繁華街とは別物です。ロンチェラ巡りをするなら、以下の3点を絶対に守ってください。
- Uber/Lyftで往復する。徒歩での長距離移動は避ける。
- 2人以上のグループで動く。単独行動は最小化する。
- 貴重品はホテル金庫に。財布は最低限の現金とカード1枚で。
サージ料金(Uberの混雑時割増)が発生することもありますが、その費用は「治安リスクを下げる保険」として旅行予算に組み込んでおくのが現実的です。深夜のロンチェラは、適切な準備さえあれば、LA旅行の中で最も記憶に残る食体験のひとつになります。煙の中で食べるアル・パストールの一口目は、本当に忘れられません。
【韓国編】コリアタウンKBBQ──カジュアルvsプレミアム分岐と最低2名前ルール
結論。LAのコリアタウン(Koreatown)は全米最大の韓国人街で、KBBQの本場としては韓国本国のソウル弘大エリアと肩を並べる規模感です。ただし、ここには日本人観光客がほぼ100%引っかかる「3つの落とし穴」があります。最低2名前ルール、炭代別途、テーブルチャージ。これらを知らずに突撃すると、入店すら断られて路上で立ち尽くす羽目になります。
コリアタウンの歴史と深夜2〜3時稼働の理由
LAコリアタウンの拡大は、1960〜80年代にかけての韓国系移民の急増に始まります。1992年のロサンゼルス暴動を経て、コミュニティは結束を強め、現在のオリンピック・ブールバード周辺の高密度なKBBQ・スンドゥブ・カラオケ集積地が形成されました。
深夜2〜3時まで炭火が稼働している店が日常的に存在するのは、移民コミュニティの労働者が深夜にしか食事の時間を取れない歴史的事情と、韓国本国の「夜まで遊んで食べる」文化が一体となった結果です。
つまり、KBBQはLAでは「夜遅くまで食べられる文化」として完全に定着していて、観光客の22時就寝スタイルには合いません。逆に言えば、22時前後にコリアタウンに入って、肉と焼酎を片手に1〜2時間滞在するのが、LAらしい時間の使い方です。
カジュアル(自分で焼く)vs プレミアム(スタッフが焼く)の分岐
コリアタウンのKBBQ店は、大きくカジュアル系とプレミアム系に分かれます。これを知らずに入店すると、「肉が来たけどスタッフが焼いてくれないな…」と待ち続けて、炭が真っ白に燃え尽きるまで待ち、最終的にカチカチに焼けた肉が運ばれてきて呆然とする、という事態に陥ります。私の最初のKBBQ体験はまさにこれで、今でも当時の自分の硬直した姿を思い出すと笑えてきます。
| 項目 | カジュアル系 | プレミアム系 |
| 焼き手 | 自分(セルフ炭火) | スタッフ |
| 価格帯 | $25〜35(AYCEあり) | $60〜120 |
| 代表店 | Soot Bull Jeep系 | Park’s BBQ系 |
| 雰囲気 | ガヤガヤ、煙モウモウ | 静か、サーブ重視 |
| 初回向き | ◎ 体験として推奨 | ◯ 慣れてから |
初回はカジュアル系のSoot Bull Jeepのような店で、煙にまみれながらセルフ炭火を体験するのが「通の順序」です。火加減・肉を裏返すタイミング・焦げる前にハサミで切り分ける──この一連の作法を体感してから、二度目にPark’s BBQのようなプレミアム店で「あぁ、これがプロの焼き方なのか」と感動する、という流れがおすすめです。最初からプレミアムに行くと、価格に見合った満足感が得にくくなる傾向があります。
最低2名前・炭代・テーブルチャージ──「メニュー外3点セット」を理解する
コリアタウンのKBBQで一人飯を試みた人が、ほぼ100%突き当たる壁がこれです。多くの店で、注文の最低単位は「2人前から」。さらに、炭使用料($3〜5程度)とテーブルチャージ(店によっては$5前後)が、メニューには大書されないままレシートに乗ってきます。これらを合計すると、$30で済むつもりが$45〜50に化けます。



KBBQ一人で突撃したら最低2名前って言われて、入店すらできなかったっす…炭代まで別途取られるって聞いてないですし。



コリアタウンの炭火KBBQは、最低2名前+炭代+テーブルチャージがメニュー外で発生する「3点セット」が標準です。一人ならスンドゥブ専門店やカルグクス店を選んでください。LAの韓国食はBBQだけではないので、選択肢は十分にあります。
事前にYelpやGoogle Mapsで「Minimum 2 people」「Charcoal fee」「Table charge」と書かれているか確認するか、入店時に「Is there a minimum order or any extra charges?」とひと言聞くだけで、想定外の出費を防げます。
バンチャン無限おかわり:「더 주세요(ト・ジュセヨ)」の魔法
KBBQの楽しみの半分は、肉ではなくバンチャン(반찬/副菜)にあると言っても過言ではありません。キムチ、ナムル、もやし和え、海苔、漬物、卵焼き──小皿で6〜10種類が無料で提供されます。そして、これらは原則として無料でおかわり自由。多くの旅行者がこの文化を知らずに、最初に出されたバンチャンを大事に大事に小分けして食べています。
魔法の言葉は「더 주세요(トー・ジュセヨ/もっとください)」。皿を指して、この一言を添えれば、店員さんが新しい皿を持ってきてくれます。AYCE(食べ放題)プランでも同じです。一人$25〜35のAYCEを取ったときに、肉だけ食べていると確実に元が取れません。バンチャンを存分におかわりして、肉と一緒に食べる──これが現地の作法であり、コスパを最大化するコツです。
一人旅行者の生存戦略:スンドゥブ・カルグクス専門店という選択
「KBBQに2人前ルールがあるなら、一人旅行ではコリアタウンを諦めるしかないのか?」──いいえ、そんなことはありません。コリアタウンにはスンドゥブ(순두부/豆腐チゲ)専門店、カルグクス(칼국수/韓国式うどん)専門店、ソルロンタン(설렁탕/牛骨スープ)専門店が無数にあり、これらは一人飯が完全に許容されます。
BCDスンドゥブのような店では、$15前後で熱々の石鍋スンドゥブとライス、バンチャン6〜8種が出てきて、一人でも何の違和感もなく食べられます。むしろ、店内には一人客の地元韓国系の方が多くて、観光客が紛れていても気づかれにくい雰囲気があります。一人旅行でコリアタウンを楽しみたい方は、迷わずスンドゥブ系のお店を選んでください。BBQの誘惑は、二人以上のときにとっておきましょう。
【タイ編】ノース・ハリウッドの「ワット・タイ寺院マーケット」という聖域
結論。LAタイ料理の最高峰は、タイタウンの座席レストランではなく、ノース・ハリウッドのワット・タイ寺院(Wat Thai of Los Angeles)が土・日に開くコミュニティ屋台市場です。1品$3〜8、メニューはタイ語のみが基本。観光向けに整えられた場所ではなく、ロサンゼルス在住タイ系コミュニティが日曜のお参りと食事を兼ねて集う、本物の「街の台所」です。
ワット・タイ寺院マーケットの全貌:土日のみの聖域
Wat Thai of Los Angelesは、1979年に設立された米国初のタイ仏教寺院です。境内では、毎週土・日の朝から昼にかけて、地元のタイ系コミュニティが運営する屋台市場が開かれます。
パッタイ、ソムタム(パパイヤサラダ)、カオマンガイ(タイ式チキンライス)、ボートヌードル、マンゴースティッキーライス、タイティー──タイ料理のほぼ全カテゴリが、本国の屋台と同じレベルで揃います。価格は1品$3〜8。LA市内の座席タイ料理店で同じものを頼むと$15〜20することを考えると、実質3分の1の値段で本物が食べられる勘定になります。
場所はノース・ハリウッド。ダウンタウンLAから車で30〜40分。Uber/Lyftで往復するのが現実的です。住所は事前にスマホで保存しておいてください。当日の現地検索だと、住宅街の中にあるため見つけにくい場合があります。
到着時間の最適解:10時半到着・行列が落ち着く時間帯
マーケットは朝8時頃から開きますが、開場直後は屋台がまだ揃っておらず、人気店も準備中の場合があります。一方で、12時以降になるとローカルの常連客で混み合い、人気店は売り切れ続出。10時半前後の到着が、屋台が出揃い、行列が落ち着き、料理が豊富に残っている黄金時間帯です。
境内のテーブル席で食べるスタイルなので、屋台で買って空いている席に運ぶ流れになります。日陰のテーブルから埋まりますから、家族連れが多くなる11時台までに席を確保しておくと、その後の食事が落ち着きます。日傘・帽子・ボトル水は持参推奨。LAの夏の日差しは、日本の感覚を超えた強さがあります。
タイ語メニュー攻略:パッタイ・ソムタム・パッキーマオの注文法
屋台の看板はタイ語のみが基本ですが、料理写真が貼られていることが多いので、初心者でも指差しで何とかなります。とはいえ、最低限知っておきたい語彙を一覧にしておきます。
- Pad Thai(パッタイ):米麺の炒め物。タマリンドの酸味が決め手。タイ料理入門の鉄板。
- Som Tum(ソムタム):青パパイヤサラダ。辛さは「Mild / Medium / Thai Hot」で必ず確認。
- Pad Kee Mao(パッキーマオ):太麺のスパイシー炒め。バジルが効いた中辛料理。
- Khao Man Gai(カオマンガイ):タイ式チキンライス。優しい味で、辛さが苦手な方にもおすすめ。
- Mango Sticky Rice(カオニャオマムアン):締めのデザート。ココナッツミルクが絶品。
辛さの単位は要注意です。「Thai Hot」は本気で辛いので、激辛が苦手な方は最初は「Medium」で。Mediumでも日本の中辛を上回ることが多いので、本当に弱い方は「Mild, please.」を勧めます。「No spicy, please.」と完全に辛さを断ることもできます。
「タイタウンのレストラン」だけで満足するなというLA通の常識
ハリウッド東部のタイタウン(Thai Town)は、世界で唯一、米国地方自治体(LA市)が公式に「Thai Town」と命名・認定した街区です。座席レストランも多く、観光客向けに整っているので、平日夜のディナーには使いやすい。けれど、それだけでLAタイ料理を語ると、片足だけで歩くようなことになります。ワット・タイ寺院マーケットの土日朝に1回足を運んだ人と、運ばなかった人とでは、LAタイ料理体験の深度が桁違いに変わります。
滞在期間に土日が入っているなら、迷わず1日朝の枠を空けておくことをおすすめします。境内のベンチで食べる$5のパッタイの一口目が、観光客向け$18のパッタイより遥かに本物だった、という事実を体感すると、LAという街の食の深さに改めて感心することになります。
【日本食編】リトル東京・トーランスで「本物」にたどり着く
結論。LAで本物の日本食を食べたいなら、リトル東京(ダウンタウンLA)かトーランス(南部)の二択です。看板に「Japanese」と書いてあれば本物、ではありません。むしろ、メニューにTeriyaki Bowl・Crunchy Roll・Edamameが目立つ店は、ほぼアメリカナイズ料理と思って間違いありません。



「日本食」って看板を見つけて入ったら、Teriyaki BowlとCrunchy Rollしかメニューになくて、ちょっとがっかりしたんです…。



Teriyaki Bowl・Crunchy Roll・Edamameが目立つメニューは、典型的なアメリカナイズ日本食です。本物はリトル東京かトーランスに集中しています。アメリカナイズの日本食疲れに対する「最終避難場所」として覚えておいてください。
アメリカナイズ日本食の見分け方:メニュー上の3つのNGワード
LAには「Japanese Restaurant」を名乗る店が無数にあります。けれども、その大半は日系オーナーですらなく、日本料理をベースにしたフュージョン料理を提供しています。本物と区別するための「見抜きキーワード」を3つ書いておきます。
- Teriyaki Bowl:日本ではほぼ存在しない、甘辛ソースをかけた肉と野菜の丼。
- Crunchy Roll / Spicy Tuna Roll:天かす入り・マヨネーズ和えの寿司ロール。
- Edamame as appetizer always:枝豆が前菜の必須アイテム化(日本では居酒屋限定)。
これらが「ない」店、もしくは「メニューの隅にちょこっとある程度」の店が、本物の日本食である可能性が高いです。逆に、メニュー1枚目にこれらが大書されている店は、フュージョン路線と判断して構いません。フュージョンが悪いわけではないのですが、「日本食を食べたい」と思って入った店がそうだと、期待値とのギャップで満足度が下がります。
リトル東京:老舗ラーメン・居酒屋・和菓子が密集するエリア
ダウンタウンLAの東側にあるリトル東京(Little Tokyo)は、1900年代初頭からの日系移民の中心地。第二次世界大戦中の強制収容を乗り越え、戦後再建された街区には、老舗ラーメン店、居酒屋、和菓子屋、書店、寿司店が密集しています。Daikokuya Ramenのような老舗の豚骨ラーメンは、平日昼でも30分待ちが珍しくありませんが、その煮込まれたチャーシューと濃厚スープは、日本人の舌でも納得する仕上がりです。
リトル東京の使い方として推奨したいのは、「LA滞在の中盤、アメリカナイズ料理に少し疲れたタイミングで1食を確保する」こと。1日中ハンバーガーやタコスやKBBQを食べていると、3日目あたりで急に「お味噌汁が飲みたい」「ご飯と漬物が恋しい」という気持ちが湧いてきます。そのときに、リトル東京の存在を思い出してください。胃の救護所として、これほど頼もしい場所はありません。
トーランス:日系スーパーと本格定食屋──最終避難場所
もう一つの本物の日本食エリアが、ダウンタウンから車で30〜40分南下した街トーランス(Torrance)です。トーランスには大手日本企業の北米支社・工場が多く、日系駐在員の家族が多数居住しているため、彼らの胃を支えるための本格定食屋・うどん屋・寿司店・日系スーパー(マルカイ、日本市場、Mitsuwaなど)が集積しています。
日本語が普通に通じる店も多く、観光地的な気疲れがない。価格はリトル東京より少し安いことも珍しくない。「LAで本物の日本食」と検索して情報が出てこない店ほど、トーランスでひっそりと地元日本人を支えている、というのがLAの隠れた構造です。レンタカーがある旅行者は、滞在中に半日トーランス枠を作ると、長期滞在者の胃の救護所感をフルで味わえます。
日本語が通じる安心感:長期滞在者の「胃の救護所」
LA留学・出張で長期滞在する方にとって、リトル東京とトーランスは単なるグルメスポットではなく、「文化的な避難所」として機能します。慣れない英語生活と外食続きで疲弊した胃に、味噌汁・白米・焼き魚・おしんこの定食が運ばれてきたときの、あの安堵感。日本語で「いらっしゃいませ」と言われる小さな衝撃。これは観光だけでは得られない、長期滞在者特有の「ホッとする瞬間」です。
あなたが短期旅行者であっても、滞在中盤に1食「本物の日本食」を入れておくと、残りの行程の食欲が回復することがあります。3〜5日間ずっとアメリカ料理+移民料理だと、4日目あたりで体が「白米と味噌汁」を欲しがります。そういう時のための保険として、リトル東京とトーランスをスマホメモに入れておいてください。
【アメリカ料理編】インアンドアウト裏メニューとランガーズNo.19の神話
結論。移民料理にばかり注目してきましたが、アメリカ料理にもLA独自の老舗・名物は確実に存在します。ただし、ここでも「メニューに載っているものをそのまま頼む観光客」と「裏メニュー・名物・営業時間の縛りを把握している通」とで、体験の深度がはっきり分かれます。
インアンドアウト3大裏メニュー:Animal/Well Done/Proteinの完全攻略
LAを代表するハンバーガーチェーン、In-N-Out Burger。1948年創業の地元密着系で、メニューは異常なほどシンプル:チーズバーガー、ダブルダブル、フライ、シェイク。これだけ見ると「普通のバーガー屋」に見えます。けれども、In-N-Outには「Secret Menu(裏メニュー)」が存在し、メニューには載っていないが全スタッフが対応してくれる注文の仕方があります。これを知らずに普通のチーズバーガーだけ食べて「普通っすね」と帰国するのは、In-N-Out体験の半分も味わっていません。



インアンドアウトのチーズバーガー食べて「普通っすね」って帰ったんですけど、何か裏メニューがあるって本当ですか?



3大裏メニューがあります。「Animal Style」「Well Done Fries」「Protein Style」。これを知らずにLAのインアンドアウトを語ってはいけません。次回の渡米時には絶対に試してください。
- Animal Style:マスタード焼きパティ+グリルドオニオン+特製スプレッド増量。これがIn-N-Out真の本気。
- Well Done Fries:揚げ時間を延長してカリカリに。標準のフライは柔らかめなので、サクサク派は必ずこれ。
- Protein Style:バンズをレタスに変えるダイエット仕様。糖質を控えたい方向け。
注文の仕方はシンプルで、レジで「Double Double, Animal Style. And Well Done Fries, please.」と言うだけ。スタッフは慣れているので、特に驚かれません。「Protein Styleで」と添えれば、バンズがレタスに変わります。3つを組み合わせれば「Animal Style, Well Done, Protein」の完全フルコース。これでようやく、In-N-Outの本領を体験したと言えます。
ランガーズNo.19──月〜土8〜16時のみのパストラミ神話
もう一つ外せないのが、ランガーズ・デリ(Langer’s Deli)のNo.19です。1947年創業の老舗ユダヤ系デリで、看板メニューはパストラミ+二度焼きライ麦パン+コールスロー+スイスチーズ+ロシアンドレッシングを組み合わせた「No.19サンドイッチ($22前後)」。NYの同業者と並ぶ全米屈指のパストラミとして知られていて、ジェイムズ・ビアード賞も受賞しています。
ただし、ここには絶対に外せない縛りがあります。営業時間は月〜土の午前8時から午後4時まで。日曜は休み、夕方以降は閉店。「ランチかディナーに」と思って午後5時に到着して、シャッターを見つめて呆然とするパターンが、LA観光客の鉄板の失敗です。場所はメトロ・パープルライン(D Line)のMacArthur Park駅から徒歩30秒。1994年のメトロ開業に伴い、地下鉄のおかげで一度は閉店危機を脱したという奇跡的なエピソードを持つ老舗です。
狙うべきは平日10時〜12時の空き時間。土曜の昼12時前後は60分待ちもザラなので、平日午前中のドライブインで一気に攻めるのが合理的です。地下鉄移動の方は、Union Stationからパープルラインで5〜7分。出口を出て30秒で店の前。これだけで「LAで一番美味いパストラミ」を体験できる仕組みは、知っているか否かで大きく差がつくところです。
フィリップスのフレンチディップ:1908年創業の老舗
もう一つの老舗代表が、フィリップス(Philippe the Original)。1908年創業のダウンタウンLAの老舗で、フレンチディップサンドの「元祖」を名乗る店の一つです。ローストビーフやポークをロール状のフレンチパンに挟み、肉汁(ジュ)に浸して食べるシンプルなサンドイッチが看板メニュー。$11〜13で食べられ、観光客もローカルも入り混じる賑やかな店内です。
営業時間が朝6時〜夜10時と長く、ランチでもディナーでも使い勝手が良いのが特徴。Union Station近くなので、Amtrakやメトロの乗り換えのついでに寄りやすい立地です。100年以上続く老舗の空気感──木のカウンター、金銭登録機の音、揚げたてのパンの匂い──が、観光ガイドにはなかなか書ききれない深みを持っています。
フードトラック攻略:当日朝SNS確認とSmorgasburg LAという保険
LAのフードトラック文化は全米最強です。コギBBQ(Kogi BBQ/韓国×メキシカンの先駆け)を筆頭に、世界的に知られたトラックが街中を走っています。ただし、毎日出没場所が変わるのがLAフードトラック文化の鉄則。「昨日はメルローズにいたから、今日もそこに行けば会える」という発想は通用しません。
- 当日朝にInstagramで位置確認。前日の投稿は無効と思って構いません。
- StreetFoodFinderなどの専門サイトを併用してリアルタイム情報を取得。
- 定置スポット(Smorgasburg LA)を保険として確保しておく。
マップのピンを信じて炎天下を20分歩いて、「今日は別エリアにいます」とInstagramの当日投稿を見たときの絶望。これを避けるには、毎週日曜のSmorgasburg LA(Row DTLA)を「フードトラック空振り保険」として旅程に組み込むのが賢い選択です。約100ベンダーが定置で集結するので、「移動リスクなしにLAストリートフードを一気体験」という贅沢な時間を持てます。
実戦で本当に使う「LAグルメ言語フレーズ集10選」
結論。これから挙げる10フレーズを出発前にスマホメモに保存し、機内で1回読み返してから現地入りすれば、LAの食でつまずく確率は劇的に下がります。英語、スペイン語、韓国語が混じっていますが、いずれも現地で本当に使う実戦フレーズだけを厳選しました。
注文前に言うフレーズ4選
- ① No cilantro, please.(パクチー抜きで)── メキシカン・アジア料理の必須護身術。
- ② Is there a minimum order or any extra charges?(最低注文量や追加料金はありますか?)── KBBQで詰まないための入店前確認。
- ③ Mild, please. / No spicy.(マイルドで/辛くしないで)── タイ料理・メキシカンの辛さ調整。
- ④ Could you check the wait time?(待ち時間を確認できますか?)── ブランチ・ラーメン店のウェイトリスト確認。
注文中に使うフレーズ3選
- ⑤ Double, please.(ダブルで)── タコスのトルティーヤ2枚重ね。崩れ防止の必須注文。
- ⑥ Animal Style / Well Done / Protein Style.── In-N-Out 3大裏メニュー。レジで一括注文。
- ⑦ 더 주세요(トー・ジュセヨ)── KBBQでバンチャンおかわり。皿を指して一言。
会計・締めで使うフレーズ3選
- ⑧ Can I get a to-go box?(持ち帰り容器をください)── ドギーバッグ。胃と財布を救う一言。
- ⑨ Custom(タブレットで0〜10%入力)/No Tip── カウンターサービス・フードトラックでチップ調整。
- ⑩ Can I split the check?(会計を分けられますか?)── 友人グループでの精算で必須。
10個と書きましたが、太字のキーワードだけでも頭に入っていれば、注文・会計の99%は無事に乗り切れます。出発前夜にスマホのメモアプリに保存して、機内のWi-Fiで1回読み返してから到着する。これだけで、LA初日の食事の余裕が変わります。
エリア別「攻略の優先順位」──滞在3〜5日の最適コース
結論。滞在3日なら4大移民食文化を1つずつ、滞在5日なら寺院マーケット・トーランス・ランガーズまで含めた完全版が組めます。以下、現実的な日程モデルを2パターン紹介します。
3日プラン:4大移民食文化を1つずつ体験する最短コース
朝:ホテル発/昼:Grand Central Marketで多文化ハシゴ/夕方:リトル東京の老舗ラーメン/夜22時:コリアタウンに移動してKBBQ(カジュアル系)/深夜:イーストLAのロンチェラに直行(Uber往復)
朝:サンタモニカの予約済みブランチカフェ/昼:In-N-Outで3大裏メニュー(Animal/Well Done/Protein Style)/夕方:ハリウッドの夜景レストランか、メルローズのフードトラック(当日朝Instagram確認)/夜:シルバーレイクのバー
朝:Smorgasburg LA(Row DTLA/日曜限定)/昼:ランガーズNo.19(土曜午前のうちに)/午後:ボイル・ハイツのビリア・タコス/夕方:トーランス遠征 or リトル東京で締めの和食
5日プラン:寺院マーケット・ランガーズ・トーランスまで含めた完全版
5日あれば、3日プランに加えて以下の「上級枠」を組み込めます。
- 4日目(土曜)朝:ワット・タイ寺院マーケット(10時半着)。境内でパッタイ+ソムタム+マンゴースティッキーライス。
- 4日目昼:トーランスへ南下。本格定食屋で味噌汁付きの和食を食べて胃を回復。日系スーパーでお土産も。
- 4日目夜:コリアタウンのプレミアムKBBQ。1日目のカジュアル系で炭火操作を覚えた後の上級ステップ。
- 5日目朝:ランガーズNo.19(平日10〜12時を狙う)。地下鉄パープルラインで5分。
- 5日目昼:フィリップスのフレンチディップ。Union Station周辺の老舗散策と組み合わせる。
5日間で4大移民食文化+アメリカ料理代表+老舗デリ+寺院マーケットを全制覇できる構成です。これだけ詰めても、まだLAの食は半分も食べ切れていません。それくらい、LAという街の食は深いんです。
移動はUber/Lyft前提:サージ料金を見込んだ交通費予算
LAの公共交通は、メトロレールが主要エリアをカバーするものの、コリアタウン・タイタウン・ボイル・ハイツ・トーランス間の横移動には脆弱です。Uber/Lyftを前提に、交通費を旅行予算に組み込むのが現実的です。深夜帯のサージ料金(混雑割増)は2〜3倍に跳ね上がることもあるので、深夜のロンチェラ行きで$30〜50/回かかる可能性も覚悟してください。
逆に言えば、これらの交通費を「治安リスクを下げる保険+移動の自由を買う対価」と捉えれば、深夜・遠征・複数エリア横断の食体験が一気に開けます。レンタカーがあると話はもっと楽になりますが、深夜の飲酒運転は厳禁ですから、KBBQやロンチェラの夜はやはりUber/Lyftが安全です。
まとめ──移民コミュニティの路上と深夜帯にこそLAの本物がある
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。最後にもう一度、この記事の核を整理させてください。LAのグルメ攻略において、「英語が通じるからどこでも大丈夫」と思うのは、深夜のロンチェラ文化とコリアタウン・タイタウン・イースト・LAの食のすべてを諦める行為です。本物の食は、移民コミュニティの路上と深夜帯にこそ存在します。
- ① 時間軸の地図:朝・昼・夕方・深夜・週末で稼働する店が変わる構造
- ② 4大移民食文化マップ:メキシカン/韓国/タイ/日本
- ③ 言語フレーズ集10選:No cilantro / Animal Style / 더 주세요 ほか
- ④ 作法の分岐:KBBQカジュアル/プレミアム、ロンチェラのサルサ識別
- ⑤ ×1.35法則:表示価格×1.35が実費(消費税9.5%+チップ18〜20%)
読み終えたあなたに、最後に4つだけお願いがあります。
- Googleマップで「イースト・LA/コリアタウン/タイタウン/リトル東京」にピンを立てる。
- 滞在日程に「深夜ロンチェラ枠」「日曜Smorgasburg枠」「土日朝ワット寺院枠」のいずれかを1つ確保する。
- 10フレーズの太字部分だけスマホメモに保存して、機内で読み返す。
- 食費予算を「表示価格×1.35」で再計算し直す。
これだけやっておけば、あなたのLA旅行の食は、確実に「他人と同じ」にはならなくなります。観光客王道ルート(ハリウッド・サンタモニカのインスタ映え)も否定はしません。けれども、それだけでLAを語るのは、本当にもったいない。
深夜0時、煙の立ち上るロンチェラの前で、トルティーヤ2枚重ねのアル・パストールを片手に、地元の人々と並んで立ち食いしている自分を想像してみてください。それがLAという街の本当の姿の、半分です。残りの半分は、コリアタウンの炭火、タイ寺院の境内、リトル東京のラーメン丼の中にあります。



LAグルメ攻略の鉄則は3つです。「移民コミュニティの路上と深夜帯に踏み込む胆力」「時間軸で店を選ぶ」「表示価格×1.35で財布を管理する」。この3つを守れば、LAの食は本当に最高です。LAの食は、知れば知るほど好きになる街ですよ。
900泊近くホテルを渡り歩き、LAだけでも10回以上通ってきた私が、最後にひとこと。「私の失敗を、踏み台にしてください。」あなたの次のLA旅行が、ガイドブックには載らない、本物の食の記憶で埋まりますように。








